今日、母親は愛人契約の相手…俺の遺伝子上の父に会いに行っている。
俺のその愛人契約をした男に会うように言われたが、断った。
会いたくなんてない。
一度も会ったことはないし、これからだって会う必要はない。
ため息をつきたくなってくる。
そんな中でも開店時間は迫ってきているので、
制服に着替えた。
黒いスーツに袖を通すとホストだったときのことを思い出す。
もういまはその仕事は上がっている。
でも、水商売に一度染まると、昼職ができない。
むしろホストを二年もできた俺は元々昼職に適性なんて
なかったのだろう。
ホストをやめたきっかけは彼女の存在だった。
キャッチをしている最中に知り合い、一目ぼれした女の子。
それがいまの彼女。
彼女とはもう二度と会えないと思っていたのに、
そのあとも何回か彼女とは歌舞伎町で再会した。
こんなにこの街の中で会うなんて、彼女も水商売の
人間なのかなって思ったが、違った。
たんに歌舞伎町の中でパーティーを主催している会社のスタッフだった。
まあ夜の仕事という時点では水商売みたいなものなんだけど。
俺がホストという仕事を知っていることを
前提で知り合ったのに彼女はまったく普通に接してくれた。
警戒されるかと思っていたのに、携帯電話番号とメールアドレスを聞いたら
教えてくれた。
俺は信頼を勝ち取るために絶対にこの女の子は店に呼ばないと決めた。
メール交換が始まってすぐにデートに誘った。そしたら応じてくれた。
嬉しかった。
彼女に会うたびに、好きになっていく。
そして好きになるほどに、ホストの仕事をすることに対して
後暗さを感じるようになっていった。
辞めたいなー。
自然とそう思うようになってきた。
客の女と話していても、彼女の顔がちらついてぜんぜん集中できない。
接客中でも携帯電話をいじってしまう。
まったく仕事にならない。
そんな日々が続いて、売上も落ちて、辞めた。